旅人たちのクロスロード
7.待ち合わせは中央広場で
中央に円形の大きな花壇が据えられた、小ぢんまりとした広場。花壇の周縁には七色の風船のオブジェが飾りつけられ、色とりどりの花々が所狭しと咲き誇る。人目を引くその花壇の前には、さまざまな人々がひととき留まっては、ほどなくして待ち合わせの相手と落ち合い、連れだって去っていく。
その片隅で、迷子の少年少女は肩を並べてたたずんでいた。
「でも、約束をしてるわけじゃないんだ」
ぽつり、とエンデがこぼす。
他愛もないきっかけで始まった、リタとの二人旅。いつまで、どこまで、なんて何一つ決めてはいない。他愛もないきっかけで道を違えるならば、そこで終わりなのかもしれない。
「わたしもおんなじだよ」
リアナも頷く。勝手にすれば、と言われてついてきた。足手まといになるなら置いていく、とも言われた。いつまで、どこまでなんて、約束はもちろんない。
「でも、会えるよ。リタさん、きっとエンデ君のこと探してるもん」
だからリアナは大きな通りへ出て、少しでも見通しのよい場所を探して歩いた。そうしてたどり着いたのが、この広場だったのだ。
もしも自分のことを探してくれているなら、少しでも見つけやすいように。
これまで、幾度となくそうしてきたように。
「つまり……リアナが早とちりして、あんたの連れを勝手に連れ出したってことだよな……」
はぁ、とレオルは深いため息をついた。リタの話を聞く限り、十中八九、彼女の連れがあの場所を離れたきっかけは、リアナにありそうな気がしてならない。大方、心細そうにしていた少年の世話を焼こうとしたのだろう。自分も立派に迷子の分際で。
「だとしてもまあ、ホイホイついてくエンデもエンデだし、気にしないで。あたしもこんなの慣れっこだから」
対するリタは、気安い調子でひらひらと手を振る。
「あの子が道に迷った時は、何があっても絶対探しにいくって決めてるんだ、あたし。それでまぁ、あの子が自分から離れていくまでは一緒にいてあげようかなって」
もう二度と失くしたくないから……そんな言葉を小さく聞いた気がしたけれど。
はっとして振り向けば、その強気な笑みには一点の陰りもなかった
「君も同じでしょ?」
「……迷子探しが慣れっこ、ってのは否定しないけど」
旅先の街ではぐれたリアナを回収した数は、そろそろ両手で足りなくなりそうだ。
「あー、そっちじゃなくて。大事な子なんでしょ、リアナちゃん」
「……は? いや、俺は」
「あ、別に変な意味じゃなくてさ。……いや待てよ、むしろそっち? そっちか? カノジョ?」
「はぁ!? だ、誰が……!」
「甘酸っぱいです……はぁ~、とっても甘酸っぱいです……!」
背後から漏れ聞こえる二人の会話に、ミーナはたまらず両の拳を強く握りしめる。
「何だ、ミーナ君まで食べ物の話か?」
「……ジョシュさん。私、ちょっぴりめげそうですよ……」
ここにはいない行きずりの友に向かって、空を仰ぐミーナだった。
「あっ、レオルー!」
咲き乱れる花々を背に、満面の笑顔でぶんぶんと手を振ってみせる少女と、
「リタ」
その傍らでほんわりと笑みを浮かべ、小さく手を振る少年。
それらを受け止めるのは、仏頂面の奥に隠しきれない安堵の色をにじませる少年と、仕方ないなぁとどこか楽しそうに笑う少女。
そんな二組の旅人の再会を祝すように――吹き抜けた一陣の風が、色とりどりの花弁をふわりと巻き上げていった。