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Character

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故郷を失い、旅暮らしをする16歳の少女。

肌身離さず身に着けている大きな笛の首飾りは

奏でるとかすかな癒しの力が宿る。

滅びた故国を救うための奇跡を求めて旅を続けているが

何処かでそれが叶わぬ夢だと理解している。

​気が強くしっかり者だが、意外と可愛い物好きな一面も。

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エンデ

自分が何者なのか思い出せない少年。

気づいた時には共にあった、不思議な紋様の刻まれた

弦楽器を携え、あてのない旅をする。

奏でる音色は魔性の音色と称されるほどの

強い力が宿るが、本人は気づいていない様子。

口数が少なく、どこかぽやんとした印象を与える。

リタ

■​SS「きみと描く旅地図」■
 

 色とりどりの花びらを巻き上げて、ぬるい潮風が通り過ぎていく。
 花祭りに沸く港町。祭りの屋台でめいめいに好きなものを買ったあたしたちは、喧騒から逃れ、海を望むちょっとした高台に落ち着いていた。
 エンデは塩レモン風味のイカ焼き、あたしはぷっくりとした魚形のカスタードパイ。それぞれ半分ずつ分け合うはずが、カスタードパイはエンデが「すごく甘い」と呟いて、一口欠けただけで返って
きた。勿論、イカ焼きの方はきっちり半分いただいたけれど。
 小さくちぎったイカ焼きを、もきゅ、もきゅと小動物めいた仕草で咀嚼しながら、エンデの瞳ははるか遠く、きらめく水平線をじっと見つめている。
「海、ずっと見てるねぇ」
「はひへてみ……むぐ」
「いいよ飲み込んでからで」
 呆れて言うと、エンデはこくこくと頷いて、咀嚼していたものを飲み込んだ。
「えっと、初めて見たから」
「海を? そうなの?」
「リタと一緒に見るのは、初めて」
「ああ、そういえばそっか」
 旅路を共にするようになってそれなりの月日が流れたけれど、そういえばこんなに海の近くまで来たことは今までなかった。
「なんか、前に見た時と色が違う……気がする」
「うーん? まぁ、時間とか、場所によるんじゃない?」
「んー」
 意図をはかりながら返したあたしの言葉は、やはり的を射ていなかったらしい。ぼんやりとした相槌が返ってくる。
 そのまま考え込んでしまったエンデを横目に、あたしはカスタードパイを頬張った。さくっと軽いパイ生地をかみ締めれば、バターの香りと、クリームの優しい甘さが口いっぱいに広がる。
「リタと一緒だと、全然違う色に見える……かも」
「あはは、何その口説き文句」
「全然違うんだ。一緒と、ひとりきりは」
 どうしてだか、それがひどく重たい言葉に聞こえて、はっとしてエンデを見た。
 星空を閉じ込めたような色彩の左目が、複雑な光を宿してきらめく。途方もない時間を独りきりで過ごしてきたのだと、そう言われ
ても納得してしまいそうなくらい、得体の知れない雰囲気がそこにはあった。
 いくら過去の記憶がないといっても、この年端もいかない男の子が旅をしてきた時間なんて、それほど長いものではないはずなのに。
 不毛な思考を残りのカスタードパイと一緒に飲み下して、あたしは「そうだね」と軽い調子で相槌を打った。
「確かに全然違う。こうしてごはんが美味しいのもエンデのおかげだね。君と歌うようになってから、おひねりもはずんでもらえるし」
 この子が奏でる楽器の音は、どういうわけか、人の心を掴んでやまない。音色に宿す《力》が、あたしなんかよりもうんと強いのだろう。加えてこの儚げで可憐な容姿。ひとたび街角で演奏しようものなら、結構な数の人が足を止めていく。
 そういうわけで、あたしとしては、この上ない賛辞を贈ったつもりだったのだけど。
「ごはん……」
「待って、違うよ? それだけじゃないからね?」
 それだけが僕の存在意義なのか、と言わんばかりの、捨てられた子犬めいた哀しい目をするので、あたしはとっさに手を振って否定する。
「こうやっていろんな話をするのも、何食べよっか、どこ行こっかって、一緒に考えるのもさ。全部、一人じゃできないことじゃない?それが……」
 ――全然違う色、ってことじゃない?
 口にしようとした言葉が、すとん、と胸に落ちて沁みていく。
 もしも本当に、全然違う景色が見えるのだとしたら。
 君と一緒なら、今のあたしは向き合えるだろうか。違う景色を見いだせるだろうか。
 もう二度と帰れない、誰もいないあたしの故郷に。
「……リタ?」
 ふいに黙り込んだあたしを、左右異なる色彩の瞳が気遣わしげに覗き込む。
「あのさ、エンデ」
 決意を込めて、あたしはその両目を見つめ返した。
「行きたい場所があるんだ。君と、一緒に」
 背中を押すように、花の香りをはらんだ潮風がひときわ強く吹き抜けていく。 

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